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大分家庭裁判所 昭和50年(少)472号 決定

少年 T・H(昭三五・一一・二七生)

主文

少年を教護院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五〇年三月二七日午後九時三〇分ごろ、大分県大野郡○○町○○×××の×番地町営性宅跡において、○○所有にかかる耕耘機のエンジン一台(時価金二万円相当)を窃取したものである。

(適条)

刑法二三五条

(処遇)

一  少年は、父の伯父の家庭において、父母とともに成長したものであるが、小学校三年生のころから下級生に乱暴をふるい、または暴力を背景として金銭をたかるなどの粗暴な振舞がめだちはじめ、また機械類に興味を持つことに帰因する窃盗行為などもしばしばみられるようになり、小学校六年生および中学校一年生時には盗み等が原因で児童相談所の補導を受けた。その後も少年の粗暴傾向等は改まる様子はみえないだけでなく、中学校二年生時から三年生になつた本年六月ごろまでの間には女生徒の下着等を窃取する事件をしばしば犯し、更に夏期休暇中である本年八月には、小学校一年生の女児にいたずらするという事件まで引き起すに至つた。本件非行はこのような状況下で犯されたものである。

二  本件非行は機械類に興味を持つ中学生が単なる好奇心から犯した軽微な非行とみられなくもないのであるが、少年の性格およびその形成されるに至つた家庭環境等と関連させて考えると、問題性は顕著である。

すなわち、鑑別の結果、少年調査票等を総合すると、少年は性格的に自己中心性、支配性、非協調性、非社会性が著しいのみならず、超自我の形成が不充分であるため、自我の疎外場面においては、反規範的な衝動行為または粗暴な振舞に出やすい行動傾向を有していること、そして少年のこのような性格、行動傾向は、少年の成長した家庭において、父と父の伯父の関係が不和であつたうえ、父の伯父の支配が優越しており、その反面として父母の少年に対する指導性は欠如していたこと、父の伯父は少年に対し、自己の農業経営の跡取りとなることを期待したためか、少年に何でも望むものを買い与える傾向があり、また幼少時から発生している問題行動に関しても、その社会的意味を考えさせ、正しい規範意識を形成させる方向での適切な指導をせず、むしろ弁償しさえすれば済むというような安易な意識を懐かせるような態度であつたこと等により、徐々に形成されるに至つたものであることを認めるのは、さほど困難なことではない。

そして、少年の右のような性格、行動傾向は、少年をして最近上記のごとき行動に走らせるまでに至つており、幼少時から最近に至るまでの上記のような諸行動の結果、少年は学校においても孤立し、地域においても問題児として白眼視され、ますます非社会化しつつあり(なお、少年の持つ機械類に対する異常な興味は、少年の持つ非社会的性格の反面と考えられる。)、これを現状のまま放置しておくことは、少年を更に発展した非行に追いやる可能性を高めるだけの効果しか有しないと考えられる。

現在、少年の父母は伯父と別居しているのであるが、少年は父母と生活することより、むしろ居心地の良い父の伯父との生活を望んで同居している状況であるが、従来の経緯に鑑みれば、父の伯父の指導にも望ましい方向でのそれを期待することはむしろ不相当と考えられ、また実父母による教育も現段階では困難ではないかと思われる。

そうとすれば、現状において少年の更生にとつて最も望ましい対策は、家庭的にも、地域的にも従来と異つた環境のもとで、少年に対し、対人接触の方法を教え、人格的、社会的成長を援助し、もつて社会に対する不適応感を軽減することであり、このような方向での教育は少年の年齢等諸般の事情を考慮すると、教護院の開放的な雰囲気の中で行われることにより最もその効果を期待することができると考える。

よつて、少年法二四条一項二号に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 田中壮太)

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